2008 知床 カラフトマス 2

(トリミングの為、不鮮明さはご容赦) 1時間ほど前まで、単独でこの岩場で竿を振っていた・・・
モイレウシ羅臼側の難所を瞬く間に越えた
二日目の知床は、霧が断続的にかかり、幻想的であると同時に、遠方が見えない恐怖心を感じた
モイレウシでの雌 数は伸びないものの、釣れる魚は型も良く、全て銀白色のグッドコンディション
とある川の近くに咲き誇っていた 花弁の内側の模様に目を奪われた

この写真集の前回である”2008 知床のカラフトマス釣り”で、「可能であれば平日の人の少ない時に釣ってみたい」と書いた。また、「但し、渡しのポイントは常に羆の出没が考えられる」とも書いた。今回の遠征初日は休暇を取得して金曜日にモイレウシへ渡ったのだけど、本当に羆が出没してしまったのは驚いてしまった。ブログ部分にも書いたけ れど、当初はペキンの鼻へ出没し、渡しの船頭が爆竹などでモイレウシ側へ追い払った事と時間がちょうど干潮時という事もあり、海岸線の岩場も難なく歩いてきた様だ。

モイレウシで釣りをしていた僕は、河口で喰いがとまった為、岬側の岩場へ移動した。ここで二本追加したものの、こちらも喰いが止まった為、キャストをしながら河口に戻った。羆が出没 したのは、それから1時間くらい後の事だ。ちょうど河口正面へ群が入ってきたのを確認した直後、岬側の岩場に目を向けると羆が悠々と歩いてくるのが目に見えた。隣の釣り人に「羆だ!」と声を掛けた。まだ距離があった為、カメラを取り出し撮影。釣り場で待機していた渡し船の船長も「おい、熊だ。こっちへ寄 れ!」と大声を上げていた。

人が集まっていれば熊の方か ら逃げていく・・・と船長は話していたのだけど、この羆は予想に反して、魚を置いていた場所の臭いを嗅ぎながらどんどんこちらに近づいてくる。暫くは河口 近くをうろついており、一匹のマスを口に咥えているのが見えた。釣り上げた鱒が落ちたのか、水量は少なかったにしろ偶然遡上したマスなのかは、羆に聞いてみないと本当の事は判らない。やがて食べる物が無いと判断したのか、河口から岩場の方へゆっくりと向かってきた。明らかに釣り人の釣り上げた魚の臭いについてきているのだと思う。こうなれば釣り上げた魚を放棄し、待避するしかないと考えていた頃、モイレウシ湾入り口に漁船が通った。

船長は腕を回し、大声を上げ て漁船を呼び止めた。漁船はそれに気がつき、やがて我々の置かれている状況を察したようだ。速い船足のまま、岸近くの羆めがけて威嚇をしてくれたのだ。何度か羆はたじろいだ様に思えたのだけど、やがては船の威嚇も他人事の様に辺りの臭いを嗅ぎだした。渡しの船長が「俺の船まで乗っけて行ってくれ!」と漁船 に頼む込む。そう、船は岬寄りの入り江に係留したままなのだ。我々のいる岩場とちょうど湾の反対側である。渡しの船長が漁船に乗り込み、一目散に入り江へ 向かっていった。その間にも羆はゆっくりと我々の方へ向かってきている。やがて、「船に乗れ~!早くしろ~!」と大声を出しながら船が戻ってきた。その間、何とも言えない嫌な気分と妙な緊張感があったのは正直に白状しないといけないだろう。

全員が船に乗り込み、沖合ま で進むと船長も釣り客も流石に一安心したようで軽口をたたくようになる。その後、羆は岩場を暫くうろついた後、河口へ戻り、再び食べ物(この場合はマス か)を物色していた。身の危険は無くなったとはいえ、数人が荷物を河口近くにデポしたままだ。再上陸するタイミングが来るまで湾内で待機する。やがて羆は上流側の岩場へ向かい、暫くは林の中に待機していたようだ。その後、再び羅臼側の岩場へ向かい、トレッキングでは難所とされる岩を登っていく姿が見えた。

ようやく、荷物を回収すべく河口へ船を乗り付け荷物の回収をする。距離は離れているとはいえ、やはり視線は岩場にあった。もっとも、僕は荷物は全て背負ってきていたから船上に居たのだけどね。釣りの方は、まだ時間は僅かに残されていたけれど、船長の「今日はこれで引き上げるよ」の指示に異論を挟む釣り人は誰もいない。

モイレウシ湾を出て、ゆっくりと海岸線沿いに船を進めると岩の間を歩いている羆の姿があった。荒々しい岩場に波がかぶり、殺風景な中を歩いている羆の姿はこの地における陸の王者を思わせる堂々たるものだと感じたのは、安全な船の上だからだろう。人を見ても、逃げ出さない熊・・・人を敵と考えたりしないだけはマシだけれど、一歩間違えば思わぬ事故に結びつく可能性がある。マスが遡上していれば、川の上流でマスを捕まえるから海岸にはあまり出てこないと船上で船長が言っていた。本当のところは判らないけれど、羆が人を怖がっていればという前提がつくと思う。釣り上げたマスの卵だけを持ち帰り、身は岩場に放置したり、そこまで悪質ではなくとも腹を割き、内蔵を陸地に残したり、あるいは食べ物の匂いのするゴミを捨てたりなど、釣り人が原因である可能性が高いと僕は考えている。

人的被害は出ていないとはいえ、釣り場で頻繁に羆が出没するようになれば、危険だという事で渡船での釣り自体が楽しめなくなる可能性もあるこの問題。多くの釣り人は、この知床の自然を汚さないようにしていると思うし、モラルある釣り方をしていると思うけど、一度の人間が何かをしでかせばそれで終わりだ。ウトロ幌別河口のパーキング閉鎖も、この一部の人間が行った結果だろう。道路がなく、自然豊かな半島先端部は釣果だけではない魅力溢れる釣り場なのだ。将来もこの地でマス釣りを楽しむ 事が出来るようと、切に願うばかりだ。