比較的道内でも温暖な道南地方の紅葉はまだ少し早いかなと考えていたけど、季節の移り変わりは早く、既に山間部では紅葉は終盤となっていた。それでも場所を選べば、美しい秋の色を楽しむことが出来た。
噴火湾に流下する太平洋の名川と言われた遊楽部川は、勿論増殖事業も行われている河川なのだが、孵化場は河口より約17km上流に位置している。また、捕獲施設も能力が低いようで結果多くの鮭が河川を遡上し、自然産卵を繰り返している河川である。八雲市街地の橋からでも遡上は観察出来るけど、最上流に近い場所はかつてヤマメ釣りで通っていたという事もあり、本当に久しぶりにその場所を訪れてみた。勿論、釣りが目的ではなく遡上した鮭を観察するためである。
予想していた通り多くの鮭が遡上し、また、既に産卵を終え生涯を終えた鮭が川原に横たわっていた。こうした川ではこの時期は独特の匂いが一面に漂っている。要するに鮭の腐敗臭なのだが、そうした川が北海道にいくつあるのか甚だ疑問である。川によっては川は鮭の工場としての機能しかなく、自然産卵などごく一部の捕獲を逃れた鮭で行われているのが現実だ。そうした視線で考えると、札幌市内を流れるカムバックサーモン運動などは僕は全く賛同することは出来ない。稚魚を放せば、遡上してくるのは感動する話では全くないのだ。この豊平川は、上流に構築されている堰堤で鮭は産卵に適した場所まで遡上など出来るわけがないのだ。
桜の名所で知られる松前も秋のこの時期は訪れる観光客も少なく、静かな道南の町という雰囲気であった。ただ、やはり歴史のある町並みは同規模の他の町とは違う雰囲気を持っている。北海道で唯一の日本式の城があった松前ならではの事なのかもしれない。
松前町から海岸線を函館方面に向かうと、10分ほどで白神岬に到着する。この岬は北海道の最南端という事になっている。地図で確認すると、この石碑よりも松前よりの地点が最南端と思えるのだが、この辺りはご愛敬である。それに北海道本島だけではなく島まで含めると、松前小島が本島の最南端である。それはさておき、白神岬から対岸に見えるのは津軽半島である。津軽半島先端部の竜飛岬までは約19kmほど。この日は少し霞が強かったけれど、望遠レンズを通して対岸を眺めると竜飛岬の灯台や近くにある風力発電用の風車の羽もはっきりと見える距離である。青函トンネルがこの地に作られたのも、この距離も大きな理由であろう。
今回の宿は松前町の温泉旅館矢野さんである。独特の泉質はナトリウム・硫酸温泉(中性低張温泉)という事らしいが、詳しい事は温泉マニアではないので判らない。少し緑がかったお湯で肌がすべすべになるタイプのお湯だ。夕食は食事処で目玉は近海産の海産物である。特に今回は松前で水揚げされた本鮪の刺身が出てきたけど、赤身が美味しいね。1つだけトロもあったけど、トロは刺身より薄く引いて握って貰った方が僕は好きだ。ようするに脂が乗りすぎているということだ。これについてはもちろん好みなんだけど、適度な脂というレベルが美味しいのであって、脂が乗れば乗るだけ美味しいというわけではないと思うのだ。それは肉も然りである。
鮑は養殖ではなく、近海産の天然鮑を使っているらしい。確かに刺身を食べた限りでは天然物であろう。当然ながら美味である。ただ、今回美味しいと思ったのは鮑の酒蒸しである。生きている段階で日本酒を鍋に注ぎ調理すると鮑が全く固くならないのだ。刺身は勿論美味しいけど、酒蒸しもお勧めである。
道の駅で買い求めた岩海苔の弁当だけど、これが思いの外美味しかった。磯の香りを感じながら海苔とご飯と醤油の素朴な味わいは、なかなかのものである。この上にイカゲソの天ぷらとこれまたイカの入ったコロッケが1つ。それに松前漬けと香の物はショウガの甘酢漬(ようするに寿司屋のガリ)とシンプルだけど、個人的には好ましい弁当であった。