夏の休暇は知床へ行くことが一番の目的であったけど、いつもとは違うルートで旅をしながら知床へ向かった。初日は札幌を出発し、日本海側を北上して羽幌から幌加内へ抜け旭川へ。幌加内の辺りは大雨による被害が後で伝えられたけれど、この時は時折晴れ間の出る天気であった。その後の状況は報道通りなのだが、こうした部分もタイミングなのであろう。
久しぶりに雨竜ダムを訪れたような気がする。この湖水で釣りをしている仲間も多いけど、僕は釣りを目的として訪れた事はない。このダム湖は戦前に完成した古い湖水で現在でも広さは日本最大の筈だ。峡谷に作られるダムではない為、自然湖の様に複雑な地形をしている。このダム湖はイトウが生息していることでも有名だけど、これは雨竜川の流れをせき止めた湖水が結果的に辺境の地にあったという事が大きい。
現在ではイトウに対する保護策もとられているようだけど、この地が道内の他の場所のように開発され続けていれば、イトウの姿も健在であったかは疑わしい。イトウに限らず、結局、人の手が入った場所は荒廃するということだろう。
この時期の道東は比較的天候が安定しており、霧の発生も少なくなるのだが、中標津へ向かう途中の美幌峠の山頂付近は濃霧に覆われていた。ただ、霧も風によって流されており、その光景はめまぐるしく変化する。霧が出ていても、暫くはその場で待つことも無駄ではない。もっとも、霧でしか見られない風景もあるのも事実である。
知床の渓流は仲間の案内で規模の大きな河川へ入る予定であったけど、事前の調査でヤマメは上流へ遡上してしまった様だとの話を聞き、羅臼町の比較的小さな河川を訪れた。この川は数も出るが、羅臼としては比較的良型が多く、ミノーを盛んに追う。
知床を訪れた目的はカラフトマスの釣りである。毎年、渡船により先端部へアタックしているが、年々渡船を利用する釣り人が増えてきた様に思える。インターネットの普及で、こうした情報が増えたことに比例しているのかもしれない。僕自身もその釣果や写真を公開しているわけで、釣り場が混雑したとしてもそれは自分も僅かに関わっている事であるし、しかたがない事だとは思っている。
結果的に1人が釣れる数は減っているのかもしれない。ただ、きれい事を言うかもしれないけれど、僕は渡船で向かうカラフトマス釣りは、半分以上は知床先端部の景色を楽しみに向かっているようなものだ。釣果はたくさん釣れれば嬉しいけれど、何本かでも釣れれば十分というスタンスでいるつもりだ。本格的なシーズンとなる8月下旬からは数が釣れるけど、中には黒ずんだりセッパリの鱒も多くなる。そして、僕はそれらは釣りたいとは思わない。カラフトマスの釣りは、フレッシュな銀ぴかの雄に限ると思うのだ。そのファイトは河口でウロウロしている鱒や河川のそれとは全く別物なのだから。
結果的に今回の渡船の釣りでは、魚からのコンタクトはなかった。例年、盆前のこの時期、数は出ないのだが何本かは釣れているタイミングであるけれど、今年は例年より鱒の接岸が遅れているようだ。モイレウシの河口近くでは、早い時期に寄ったであろう既にセッパリとなった鱒を数回見たけれど、ルアー単体には全く反応はなかった。もっとも、このような鱒を狙っているわけではないので、沖を回遊しているであろう群を狙ったフルキャストをくりかえしたが、モイレウシそして滝の下では群は確認出来なかった。
知床の基幹部に位置する斜里町の近くにある以久科原生花園(いくしなげんせいかえん)に立ち寄ってみた。北海道の原生花園で8月という時期は、例えばエゾカンゾウの大群落の様に一面をその色の染めるような咲き方はしていない。ハマナスは旬が長いので大輪を誇らしげに開いているけれど、結実した木もあり、既に秋の気配を感じる。この以久科原生花園は近くの小清水原生花園ほどの規模もなく、訪れる観光客もまばら。それ故、ゆっくりと静かに花を楽しむことが出来る場所だと思う。本命視で訪れる場所ではないと思うけど、斜里に近い場所なので僕はこの道を走るたびに、この原生花園を訪れるようにしている。晴れた日に海岸へ出れば、知床半島の山々が青空に映える。
清里町にある「さくらの滝」は、数多くのサクラマスが滝を上ろうとジャンプする光景がみられる場所である。昨年訪れた時は多くの鱒がジャンプを繰り返していたけれど、今年は数が少なかった。もっとも、少し前はたくさん飛んでいたという話を聞いたので、水量などにより既に滝上に遡上してしまった可能性もあり、これも釣りと同じでタイミングであろう。7月下旬頃であれば間違いないと思うけど、もっと早い時期の色づく前の鱒に出会いたいものである。
知床の帰り道は高速の割引が効かない平日の為、全て一般道を通行した。車載計では540kmを平均51kmという速度を表示していたから、10時間運転していた事になる。実際には途中で昼寝をしたり、寄り道をしてしまったので出発して札幌に着いたのは12時間を越えていた。そんな帰り道、雨竜町で丘の上に黄色い花が咲いているのをみかけた。雨竜町といえばひまわり畑が有名だが、近年は観光客も減少しているそうだ。
狙っていたカラフトマスも昨年に続き、今年もキャッチすることは出来なかった。時期をずらして挑戦すれば、きっと自分の竿も曲がると思うけど、それは結果論だ。人混みの釣りは出来れば避けたいと考えているので、その意味では今回のような渡船がベターである。何せ渡し客は僕1人しか居なかったのだからポイントは独占状態である。行く前からリスクは判っていたし、事前の釣果情報より期待は出来なかったアタックであったけど、カラフトマスは回遊魚である。昨日、釣れたからといって今日釣れるとも限らない。その逆も然りであり、いつ群が来るかは誰も判らないのだ。そんな博打的な部分も、この釣りの楽しみの1つと思える様になった。
そんな僕のスタイルはナンセンスなのかもしれない。でも、遅い時期のカラフトマス釣りは、ある意味で釣堀状態である。また、この魚はリリースされることもあるけど、キープする釣り人も多く、(それは僕も同じなのだけど)この釣りだけは釣れるだけ持ち帰るという釣り人も多い。オホーツクで目にする引っかけと目的は同じだと書くと、憤慨する釣り人もいるかもしれないけれど、それは非合法か合法かの手段の違いでしかない。サケマスしか釣りをしないという人も多いけど、北海道という土地では誰しもがサケマスについては頭に血がのぼるのか、色々な場所でトラブルを起こしているのが実情としてある以上、この釣りの釣果至上主義な部分は釣り人が考えなければいけない事なのだと思う。