深夜、十勝川の河川敷に到着すると、多くの星が瞬いていた。もっとも、月あかりが思いの外明るく、ヘッドライトを消し、やがて目が慣れてくると肉眼でも周辺が何となく見渡せるというレベルであった。そんな中、冬の星座であるオリオン座が西の空に浮かんでいた。
道東で釣りをする時、何よりも外したくないのが東の空にのぼる朝陽だと僕は思っている。空気の澄んだ道東の空は、この季節は特に晴れが多く、朝陽は大地を赤く染める。夏の太平洋にのぼる朝陽も美しいけれど、どちらかといえば僕は初冬の頃、落葉した木々の間にのぼる方が好きだ。ただ、いつも思うことだけど、朝陽の写真は露出が難しい。特に太陽が入ると、何処に露出を合わせるのか悩む事になる。
朝陽がのぼる十勝川は光景こそ美しいものの、釣り師にとって一番過酷な時間でもある。気温が低く、写真では判りづらいが川から水蒸気が上っている。今日の釣りへの期待感から、この寒さに耐えているだけなのだ。幸いにして、この日の最低気温はマイナス4度ほど。車載の温度計の数値だが、この気温だとPEラインの使用はぎりぎりというところであろう。この日は9度ほどまで気温が上がると予想されていたので、朝一番を乗り切れば何とかなる筈だ。更に気温が下がると、トラブルの少ないナイロンラインも考慮しなくてはいけない季節になったようだ。
今年の十勝川は、僕の感覚的には不調そのものである。それほど遠くない音別川や茶路川も、数年前のように川におびただしいアメマスが群れとなっている事が昔話のような状況だったらしい。今年の夏もウミアメは不調に終わった感がある。釣り人の感覚でしかない事だけど、アメマスの絶対数が減少しているように思えてならないのだ。ただ、不調なのは十勝から釧路までの範囲のようで、厚岸や根室方面は例年と変わらない様だ。何れにしても、心配はあるけれど、今後数年をかけてアメマスの生息状態を見守る必要がありそうだ。
前置きが長くなったが、釣りの方は相変わらず厳しい。濁りは薄れてきているので、何とか小型を2本ランディングしたけれど、十勝川サイズとは言えない40cmを少し切るくらいのアメマスだ。ただ、このサイズは例年この時期に多くなるようで、コンディションも良い為、産卵に参加していない越冬遡上群だと思う。
十勝川の周辺は、水鳥の宝庫である。下流域にはかなりの沼が古川が残されており、まだ結氷していない為、真夜中でも河畔林の向こうに鳥の鳴き声が聞こえる。釣りを初めて、暫くたったころ、白鳥の大きな群れが僕の前を横切っていった。カモなどと違い、白鳥は大きな鳥なので低空を飛んでいると、なかなか迫力がある。
十勝川の河畔林は広葉樹が主であり、この時期はエノキダケが姿をあらわす。何処にでもあるわけではなく、窪地の様な湿った場所でコケの生えている様な太い倒木があれば、エノキダケの発生条件に適う場合が多いようだ。釣りが不調の為、竿を持ちながら倒木を探し歩いてみた。エノキダケ自体は見つけるのは容易なのだが、タイミングが少し悪かった様で、朽ちかけている菌が多かった。それでも、まだ生えたばかりのエノキダケを選び、それなりの量が採取出来たのは良かったと思う。
久しぶりに、帯広から国道274号線を抜け、一度も高速へ乗らずに帰還した。時間を買うという意味では、高速道路は圧倒的に速いのだが、日曜日は移動日と決めているので急ぐ旅ではない。それよりも、純粋に色々なところへ立ち寄り、景色を楽しみたいと最近強く思うようになった。高速道路はある意味で合理的なだけの道であり、走っていて楽しいと感じる事は少ない。特に日曜日の交通量を考えると、事故の多い道東道は遠慮しておきたい道の一つでもある。